日本の神話
大好評!一週間で合計150名の方に読者登録を頂きました!多謝! |
物語「日本武尊」(上) 七、 草 薙 剣
■立ち読みコーナー
七、 草 薙 剣 |
※ 実際の書籍には、ルビがついています。 |
七、 草 薙 剣
翌日。その矢梨の浜を出航した日本武尊の一行は、さらに南航しては伊勢湾へと入り、
左舷前方に霞む伊良湖岬の鼻を東へと回り込んでは外洋へと出た。今にいう遠州灘である。
途端に波は荒くなり、うねりも比較にならぬほど大きく、吹く風にも力が溢れていた。
それでも天気は晴朗にして、空も海も澄明であり、左舷に見やる片浜十三里という直線
の砂浜沿いの沖は、黒潮の影響により冬なお暖かく、この方面に慣れた船頭には快適な航
海であった。
「今日は、あのあたりへ着けましょう」
と船頭はいい、今にいう一色ノ磯へと数叟の船団を導いた。一色ノ磯は、美しいには違
いないが、果てしなく続くかと思われる砂浜の中にあって稀な磯で、このあたりでは景勝
の地であった。
いさな取り 海ゆく旅の はしきやし 海ゆく我がせ 常にもがもな
と弟橘媛は、着岸して上陸したとき、思わず一首を口にした。平穏な海象であったとは
いえ、冬の一日を海路で過ごし終えたあとの安堵感のなさしめるところではあった。《な
思ひと君はいへども・・・・》の心境であったのであろう。
翌日も好天で、船は名にし負う遠州灘を、さらに東へと進み、その日の夕方には、今に
いう今切口あたりの浜辺へと逢着した。今切口というのは、明応七年(西暦一四九八年)
の大津波により砂州が破壊され、それで、それまで淡水湖であった遠淡海(浜名湖)が海
と繋がることとなった、その開口部のことをいう。従って、それ以降の浜名湖は、文字ど
おりの遠淡海、つまり淡水湖ではなくなり、海水の混じり合う、つまり塩分を含む汽水湖
となったのである。
「この北の方に、遠淡海と呼ばれます広い淡海がございます」
との船頭の説明に、いたく日本武尊は心を動かされては、
「明日にでも観に行くべきであろうか」
と弟橘媛に問うた。が、媛は首を縦に振らずに、
「さきを急がれませ」
と厳しい口調であった。物見遊山的なことをして、全員の士気の緩むのを危惧したから
である。
それで翌日も東へと直航したのであるが、まもなく左舷に美しい白砂の浜が見えてきた。
米津浜の中田島砂丘であるが、この砂丘が日本三大砂丘の一つとされるのは、起伏が激し
くないために、風紋の繊細さがよく分かるからである(という)。
「さきには、まだまだ美しい浜辺がありますよ。今夜は、そこへと泊まります」
と船頭がいうので、それを楽しみに米津浜の沖を通過したのであったが、間もなく左舷
に大きな川の川口が現れた。暴れ天竜といわれる天竜川である。
もっとも、当時の川の名も、川口の位置も詳らかにはしないが、その東の太田川にして
も事情は似たようなものであって、太田川の西を流れる支流の今之浦川共々、往古には共
に今ノ浦という入江を作っていたようである。その今ノ浦の北端が見付という土地であり、
西方よりやってきては、このあたりで初めて富士山が見えたので、見付と呼ぶようになっ
ていったというのである。
その日も午後遅くになって、すでに天竜川河口あたりより続いていた左舷の砂丘が、冬
の夕陽を斜めに浴びるようになってきたこともあってか、細かい白砂の砂丘と風との作る
風紋が、黄金色に輝いて神秘的な風韻を醸し出していた。
今に千浜砂丘と呼ぶあたりであったが、東側の浜岡砂丘をも含め南遠大砂丘と称しては、
規模において、さきの中田島砂丘と入れ替っては、日本三大砂丘に数えているようである。
ほかの二つにしても、美しさにおいては千葉の九十九里浜、規模において鹿児島の吹上浜
が数えられ、鳥取の砂丘は両方に筆頭格の恰好で入っている。
浜岡砂丘の新野川の川口へ船を着けて宿りした翌日、その日は、いよいよ最大の難所で
ある御前崎の鼻を北へと回り込む日であった。御前崎は高さ四十メートルほどの台地が、
そのまま海へ落ち込んでいる岬で、岬の周りは砂浜もあるが磯続きであり、従って海石
(岩礁や暗礁)も多い危険地帯である。さらに黒潮と駿河湾の湾流とが複雑に行き交って
いる上に、冬には遠州のからっ風といわれる季節風が強く、今も昔も船乗り泣かせの海域
であるのに変りはなかった。
「あの海石のあたりが危ないのです」
と船頭は左舷斜め前方の海面に見えてきた大きな岩を指さしながら説明した。それは岬
の東方四キロメートルほどの波間に見え隠れしつつ浮かぶ、今にいう御前岩であった。御
前岩は満潮時には海面下に没してしまうのである。
「あの海石と、岬の間を行くことは難しいのであるか」
と日本武尊は当然ながら尋ねた。
「はい。遠浅でありまして、引き潮時には多くの海石が頭を出すところです」
幸い風も潮流も弱く、船は無事に御前岩を北へと回り込んでは、何とか駿河湾へと入っ
ていった。
「おう。見事な山である」
と尊は感嘆の声を発したが、何の遮るものもない前方の視界に、あたかも雪を戴いた富
士の高嶺が玲瓏たる姿を現していた。
「二つとない不二ノ山でございます」
・・・つづく
|
|
忘れかけていた日本人のこころを呼び覚ます物語を日本の神話として、書き下ろします!
日本書紀・古事記・万葉集を参考しています。
メールアドレスを入力してボタンを押すと登録・解除できます。
(マガジンID:0000145851)
メールマガジン登録
Powered by 
|
第二弾!
メルマガ発行決定!
「斬る!時事問題の
トリビア・コラム!」 |
政治・経済・外交を中心に、ちょっと角度を変えた歴史的視点から、日本の世を斬る!
「へぇ〜」と感じる人も、「残念!?」と感じる人もいるかも(-_-;)。
週刊時事ネタ。
(マガジンID:0000146260)
メールマガジン登録
Powered by 
|
大好評!
メルマガ第三弾!
「万葉集」より、
額田王
柿本人麻呂
大伴家持
メルマガ発行決定! |
万葉集で有名な額田王、柿本人麻呂、大伴家持の歌集の謎に迫る!
万葉集関連の書籍ではかなり出版されているが、
著者の見解により、新しい角度で万葉集を解き、”万葉三代紀”を描いています!
第一弾は、額田王!
その後、柿本人麻呂、大伴家持と続きます!
乞うご期待!
(マガジンID:0000147008)
メールマガジン登録
Powered by  |
▼古代天皇物語書籍 |
日本武尊(上下)
仲哀天皇
神功皇后(上下)
応神天皇
仁徳天皇(上下)
履中天皇
|