日本の神話
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物語「日本武尊」(上) 六、 弟 橘 姫
■立ち読みコーナー
六、 弟 橘 姫 |
※ 実際の書籍には、ルビがついています。 |
六、 弟 橘 姫
速見邑(今の別府あたり)をあとにした日本武尊の一行は、途中何事もなく、吉備国へ
立ち寄っただけで難波津を経由、秋九月の末に倭の纏向の日代宮へと凱旋した。
「弟彦を戦死させてしまいましたことだけが・・・・心残りでございます」
と日本武尊は、今さらながら、今は亡き尾張の勇者であった弟彦のことを悔やんだので
あるが、
「戦死は戦いの常。この上は弟彦の霊を懇ろにまつるように」
との大足彦天皇のありがたい言葉であった。が、
「ときに、しばらく休んだあと、巨勢へと赴いてもらいたいのである」
と天皇は続けた。
「巨勢へ・・・・でございますか」
巨勢といえば葛城の地の南方であり、武内宿禰の懇意の地でもあった。であるのに、な
ぜ自分に行けといわれるのであろうか、と尊は怪訝な思いがしたのであったが、天皇は続
けて述べた。
「巨勢は紀への出入り口である・・・・」
「紀国に何か・・・・不穏な空気でもございますのでありますか」
と性急に問いかける尊に、天皇は笑みを浮かべては言葉を継いだ。
「さすがに鋭敏である。・・・・ことが起きているわけではないが、紀はその南の海と繋がっ
ていて、意外に筑紫や日向、あるいは襲などと、 往来は頻繁なようである。それで、そん
な紀の出入り口にある巨勢の実情を・・・・いましには知っておいてもらいたい、と思うので
ある」
それで数日ののち日本武尊は巨勢へと向け、日代宮をあとにした。吉備武彦は筑紫より
帰還の途次、暫く国に留まるとのことで不在であり、近江の気長宿禰王も、東国の横立や
田子、乳近らも国へ帰っていたため、大伴武日が従うていくこととなった。
巨勢へと向かうには幾つもの道があったが、往路は畝傍山の東麓を南へと下る道を行く
こととした。今の近鉄吉野線が通う道で、道が西へと折れ、前方に高くはないが秀麗な山
容の山が望まれたとき、思わず日本武尊は立ち止まったのであった。
「初めて見る山であるのに、なぜか懐しい気がする。・・・・あの山の向こう側へと出てみよ
う」
二人は(といっても多少の従者は連れてはいたが)、その国見山という山の北側の低い
坂を越えたのであるが、越えたところは広い野原が広がっていた。のちにいう琴弾原であ
る。
「何か、音色が・・・・聴こえてくる」
尊は立ち止まっては聴き入るようであったが、
「あれは琴の音にちがいない」
「なかなか妙なる調べでございます」
と大伴武日も西風に乗ってであろう流れてくる琴の調べに耳をすましていたが、
「あの樹陰に人影が見えます」
と前方の松林の方を注視しながら申し上げた。そこは池のほとりであり、のちにいう掖
上池の前身となったものであろう。
池畔の松林へ近づいてみると、数人の人影が認められ、尊らの近づく姿に気づいたもの
か、琴の音は止んだ。
「やめることはない。・・・・そのまま続けなさい」
と近づいた日本武尊は、優しく声をかけたのであるが、その声に振り向いて静かに尊を
仰いだ女人を見ては、尊は覚えず胸を熱くしたのである。それほど艶やかな女人であった
ようである。
「あの山を越えるとき、不思議に懐しい気持ちがした。何か、以前より見知っているよう
な・・・・。そこに琴の調べが聴こえ、そなたと出会うたのである・・・・名は何というのである
か」
当時にあっても、女人が問いかけた相手の男に名を告げるということは、相手の意を迎
えたということとなり、従って、簡単に応えうるものではなかったのであるが、その女人
は何のけれんもなく申し上げたのである。
「はい。大橘媛・・・・と申します」
「大橘媛・・・・。筑紫へ赴いたとき、田道間守を世話した縁で、橘の苗木を贈られたという
土地があったが・・・・そなたは、田道間守とは有縁のものなのであるか」
「私は田道間守さまとは・・・・直接の縁はございませんが、姉妹同様にしています葛城高額
媛は・・・・有縁のものでございます」
と大橘媛は遠回しに応え申し上げたが、有縁どころか、葛城高額媛の父は但馬清彦とい
い、清彦は田道間守の父ともいう関係にあった。
「姉妹同様にしている葛城高額媛・・・・。して、そなたは・・・・」
「私は穂積のものでございます。これは妹の弟橘媛でございます」
「ほう。そなたらは穂積の家の姉妹なのであるか・・・・」
して高額媛は・・・・と問いたげな表情の尊に気づいた大橘媛は、軽やかに応えた。
「高額媛は今日はきてございません」
「いつもは、くるのであるか」
「はい。この池のほとりへと三人で参りましては、あの神々しい葛城山を仰ぎながら、琴
を習うのでございます」
すでに初冬の柔らかい陽光は西の葛城山に傾き、吹く風にも冷気が感じられてきた。
・・・つづく
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