日本の神話
大好評!一週間で合計150名の方に読者登録を頂きました!多謝! |
物語「日本武尊」(上) 二、 紀 水 門
■立ち読みコーナー
二、 紀 水 門 |
※ 実際の書籍には、ルビがついています。 |
二、 紀 水 門
その冬十二月五日、天皇は皆を集めては宣べた。
「速見邑を出てより、すでに六十日・・・・。熊国(大体は今の熊本県)や襲国(大体は今の
鹿児島県)に盤踞する、まつろわぬものを平らげるというのが目的であったが、考えるに、
いまだ身は日向国にあるようであり、その意味では、話はこれから、緒についたばかりか
と思うのである」
「・・・・」
一同は水を打ったように静まり返っているばかりで、咳ひとつ聞こえなかったのである
が、やがて発言するものがいた。見ると、それは若い吉備武彦であった。
「いまだ熊や襲の地そのものには赴いてはいないかと存じますが、すでに豊国(ここでは
今の大分県直入郡のあたり)で討滅いたしましたのは、熊か襲より出ていました賊か、少
なくとも、その息のかかっていました賊かと思われます。その意味では、すでに熊や襲の
地こそ踏んではいませぬが、熊や襲のまつろわぬものらと戦い、勝利しましたものと考え
て差し支えもないかと存じます」
若いのになかなか理路整然とした弁を弄するものと天皇は感心して聞いていたようであ
ったが、それに誘われたものか、一の重臣たる武諸木が申し上げた。
「武彦の申し上げましたところは、確かに、そのとおりでございます。それに付け加えま
すに、すめろきには、多くの土地をできる限り長い時間をかけましては御覧になるという
形で、山中を歩かれました・・・・」
「・・・・」
「これは、一つの作戦でありましたかと存じます」
山間を踏破するのが作戦になるのか、と思いながら天皇は聞いていた。
「広い野でありますならともかく、山の上でありますれば、もし相手方に、わが方を殲滅
せんとする意図がございましたなら、大軍で大きく囲むだけで充分でありましたかと存じ
ます」
「・・・・」
「弓矢を使うまでもなく、兵糧を断ちますだけで簡単に、ことはなったでありましょうか
らでございます」
「なるほど・・・・。あえて、その挙に出てこなかったのは、なにゆえであろうか」
と天皇は尋ねた。
「御稜威(天皇の威光)によりますものかと・・・・」
「熊や襲のまつろわぬものは、しかし、ほかにも別にいるのではないか」
「こそこそと刃向かうものは、いつの世、どこの土地にもいますものでございます。そん
なものは措きまして、大勢はすでに決してございます」
「どうして分かるのであるか」
「すめろきには、こうして宮を営まれましても、反旗の翻ります気配もございません。斥
候を四囲に放ってもございますが、その報告には何の異常もございません」
「分かった。それでは私自ら視察に赴こうと思う」
と述べて天皇は話を打ち切ろうとしたのであったが、そのとき、やってきて請うものが
あり、許しをえると天皇に申し上げたのである。
「やつかれ、襲国へ出ました斥候でございますが、襲国には熊襲両国にはびこります八十
(多くの)梟帥をまとめています熊襲梟帥というものが勢力を張っています。この熊襲梟
帥を平らげますれば、熊襲両国の大方は自然と御稜威に従いますでしょう」
「熊襲両国を束ねているとなると、少々の兵を出しても埒はあくまい。さりとて大軍を動
員すれば、民は困るであろう」
「はい。そこで一計がございます。熊襲梟帥には姉を市乾鹿文、妹を市鹿文という容姿端
麗な娘がございます。二人とも、なかなかのしっかりものでございます」
「・・・・」
「が、そこは妙齢の娘。赤絹の一反なりとも与えますれば、その父親の熊襲梟帥に何とか
近づき、隙を衝く機会もえられましょう」
熊襲梟帥に近づきえさえすれば、何とか誼を通じ合うこともできようかと思い、天皇は
娘を宮へ招き入れることとした。
赤絹一反という思いもよらない貴重な品を簡単に手にすることができた市乾鹿文は、高
屋宮へ赴けば、あるいは、さらに珍しいものを贈られるであろうと聞いて、豪気にも独り
でやってきたのである。
「よう来られた。して、そなたの住まいは襲国のいずれのあたりにあるのであるか」
と天皇は、鄙には稀な美しい娘を見ながら問うた。
「それを聞かれまして、いかがなさいますのか。熊襲両国、いずれの地といえども、私の
住まいでないところはありませぬ。この日向国にしましても、もともと私の国と称して差
し支えはないでしょう」
「私の国・・・・。しかし、そなたは熊襲両国を束ねているという熊襲梟帥の娘の一人であろ
う。とすれば、熊襲両国、さらには日向国をも含めて、いやしくも《私の国》といえるの
は、そなたの父上の熊襲梟帥その人ただ独り、ということとなるのではないか」
「お言葉ですが・・・・」
と気丈な市乾鹿文は、その端麗な顔に妖婦のような色を浮かべては続けた。
「父は妹の市鹿文の方を可愛がるのです。ゆくゆくは市鹿文を熊襲両国の女王にしようと
目論んでいます。ちょうど筑紫の、今は亡き卑弥呼のように・・・・」
「卑弥呼のように・・・・」
天皇は意外な名を耳にしては、戸惑いを隠せなかった。
「しかし・・・・卑弥呼女王は、そなたもいわれたように今は亡く・・・・今は壱与女王と聞いて
いる」
「壱与・・・・。そうです。その壱与がくせ者なのです。わが父を誑かせ、熊襲両国はおろか、
すでに日向をも手なづけてしまいました。私には、それが許せないのです」
「日向をも手なづけたと・・・・」
「そうではありませんか。高屋宮などと称しては、壱与の手先となり下がっているではあ
りませんかっ」
次第に激昂してはくるが、話す話の筋は妙に通っていそうな市乾鹿文を前にして、さす
がの天皇も持て余し気味となった。
「分かった。分かりました。それでは・・・・何か、よい方法を模索しよう」
「方法は一つしかありません」
「一つしかない・・・・と」
「私の父を、・・・・熊襲梟帥を誅殺するしかありませんっ」
・・・つづく
|
|
忘れかけていた日本人のこころを呼び覚ます物語を日本の神話として、書き下ろします!
日本書紀・古事記・万葉集を参考しています。
メールアドレスを入力してボタンを押すと登録・解除できます。
(マガジンID:0000145851)
メールマガジン登録
Powered by 
|
第二弾!
メルマガ発行決定!
「斬る!時事問題の
トリビア・コラム!」 |
政治・経済・外交を中心に、ちょっと角度を変えた歴史的視点から、日本の世を斬る!
「へぇ〜」と感じる人も、「残念!?」と感じる人もいるかも(-_-;)。
週刊時事ネタ。
(マガジンID:0000146260)
メールマガジン登録
Powered by 
|
大好評!
メルマガ第三弾!
「万葉集」より、
額田王
柿本人麻呂
大伴家持
メルマガ発行決定! |
万葉集で有名な額田王、柿本人麻呂、大伴家持の歌集の謎に迫る!
万葉集関連の書籍ではかなり出版されているが、
著者の見解により、新しい角度で万葉集を解き、”万葉三代紀”を描いています!
第一弾は、額田王!
その後、柿本人麻呂、大伴家持と続きます!
乞うご期待!
(マガジンID:0000147008)
メールマガジン登録
Powered by  |
▼古代天皇物語書籍 |
日本武尊(上下)
仲哀天皇
神功皇后(上下)
応神天皇
仁徳天皇(上下)
履中天皇
|